2024.06.11
Research
近視のヒトを対象としたウェアラブル脳波計を用いたニューロフィードバック試験により短期間の視力改善に成功
本研究成果に基づく自宅等での視力訓練のニーズに応える事業を開発・展開予定で、事業パートナーを募集
VIE株式会社(神奈川県鎌倉市、代表取締役:今村 泰彦、以下VIE(ヴィー))は、ニューロテクノロジーを利用した視力回復訓練技術を開発することに成功し、詳細な結果が学術雑誌「Frontiers in Neuroergonomics」に掲載されましたのでお知らせします。
⚫︎ 視力には末梢性(眼球・網膜レベル)だけでなく、中枢性(脳の処理レベル)のものがあり、近視・老眼でも中枢性の視力を「知覚学習」と呼ばれる訓練により、ある程度上げられることが分かっています。※1
⚫︎ しかしながら、効果が出るまでに大量の訓練回数と期間が必要で、普及するには課題がありました。一方、訓練前における脳の感覚野で観察される「α波」という脳波の周波数成分の強さと訓練の効率の関係が示唆されてきています※2が、視力回復に関しては直接的な研究が存在しなかったという状況でした。
⚫︎ 今回、ウェアラブル脳波計を使ったニューロフィードバック(NF)により視覚野付近のα波を増やした状態にすることで、30分程度の知覚学習(視力回復)訓練を1週間に2回、2週間で全4回のセッションという極めて短いトレーニング期間でも、視力向上効果がみられるかを検証しました。
⚫︎ 実験前後での視力(小数視力)検査の結果を主要評価指標と項目とした結果、NF群のみで訓練2週目、向上した視力の安定した固着効果(訓練効果が直後だけではなく、翌日以降も維持される)が見られました。比較用のコントロール群として、同じ量の知覚学習の訓練を行うがニューロフィードバックを行わない条件を設定しています。
⚫︎ NF群では、2週間で小数視力で平均0.16の向上が観察され、これは過去の研究における2か月間かけて45分×8日間訓練を行う※3のと同等の効果でした。また、より強いα波を訓練時に出せていた参加者は、次回の測定でより高い視力回復効果を維持していました。
⚫︎ 以上のことから、α波を増強した知覚学習により、効果の固着を高め、短期間の訓練でも視力改善効果を得られることが示唆されました。この成果を応用し、知覚学習とウェアラブル脳波計によるNFを組み合わせることで、多くのユーザーが気軽に視力向上の訓練を行える方法が普及することが期待されます。
⚫︎今後、本研究成果に基づく自宅等での視力訓練のニーズに応える事業を開発・展開予定で、事業パートナーを募集します。
※1: Durrie, D., & McMinn, P. S. (2007). Computer-based primary visual cortex training for treatment of low myopia and early presbyopia. Transactions of the American Ophthalmological Society, 105, 132.
※2: Brickwedde, M., Krüger, M. C., & Dinse, H. R. (2019). Somatosensory alpha oscillations gate perceptual learning efficiency. Nature communications, 10(1), 263.
※3: Camilleri, R., Pavan, A., Ghin, F., Battaglini, L., & Campana, G. (2014). Improvement of uncorrected visual acuity and contrast sensitivity with perceptual learning and transcranial random noise stimulation in individuals with mild myopia. Frontiers in psychology, 5, 110977.
論文情報
Chang, M., Suzuki, S., Kurose, T., & Ibaraki, T. (2024). Pretraining alpha rhythm enhancement by neurofeedback facilitates short-term perceptual learning and improves visual acuity by facilitated consolidation. Frontiers in Neuroergonomics, 5, 1399578.
ニューロテクノロジーによる視力回復訓練の概要
近視や加齢に伴う視力(VA: Visual Acuity)の低下は多くの人々にとって日常生活に支障をもたらす問題ですが、その回復は難しく、メガネなどの補綴器具を用いるか、外科手術などの侵襲的なアプローチによる対策しかありません。近年新しい視力回復技術として、知覚訓練による脳の視覚系の可塑性に基づいた学習(知覚学習)が注目され、中枢性の視力の視覚機能を改善可能であることが報告されています。
知覚学習の中でもガボールパッチ(GP: Gabor Patch)が、視覚機能を強化するためのツールとして頻繁に使われますが、課題自体が単調で苦痛であると共に、効果が出るまでに大量の訓練回数と期間が必要で、ユーザーに普及するには課題があります。知覚学習を促進する手段としてニューロフィードバック(NF: neurofeedback)によって訓練前の感覚野におけるα波の強さを上げることが有効であると示唆されていましたが、視力回復にNFが貢献することを示す研究は無く、また仮に有効でも多くの人々がNFを日常生活で利用するには簡易なプロトコルを設計する必要がありました。
そこで、我々は、手軽に使えるウェアラブル脳波計(VIE Zone)を用いたニューロフィードバックおよび視力回復プログラムを開発し、日本在住の近視の方を対象に1回あたり30分程度のGP訓練を1週間に2回、2週間で全4回のセッションという極めて短いトレーニング期間でも、NFを行うことで視力向上効果がみられるかの検証試験を行いました。なお、主要評価項目は、視力検査でおなじみのランドルト環を用いた小数視力の変化量でした。
試験はランダム化、単盲検で、コントロール条件はGP訓練をNF群と全く同じスケジュール・量で行ってもらいましたが、訓練の直前のニューロフィードバック時に、ただ動画を見てもらう条件でした(コントロール条件の方が動画を見る時間とNF群がα波を増やす訓練を行う時間は同じ。)。
結果の概要
NFでα波を上げることを訓練した群では実際にα波をよりたくさん出せるようになり、コントロール群では見られなかったコントラスト感度(CS: contrast sensitivity)の向上が4回目の訓練時に見られました。
またNF群のみで、安定したVAの向上の固着効果(前回の訓練効果が維持される)が3回目と4回目の訓練時に観察されました。最終4回目の訓練開始時の視力検査の結果は、初回の視力と比較すると小数視力で0.16向上しており、これは過去の研究の45分×8日(2か月かけて実施)の訓練と同等の効果が得られたことになります。
より強いアルファ波を3回目の訓練時に出していた被験者は、4回目の訓練開始時により高い視力回復効果が観察されました。
以上のことから、α波を増強することで、その後の知覚学習の固着を強め、短期間のGP訓練でも視力回復効果を得られることが示唆されました。知覚学習とウェアラブル脳波計によるNFを組み合わせることで、多くのユーザーが気軽に視力回復の訓練を行える方法が普及されることが期待される結果です。
今後について
本研究成果に基づく自宅等での視力訓練のニーズに応える事業を開発・展開予定です。VIE社単独だけでなく、こうしたデジタルやニューロテクノロジーを利用したヘルスケアビジネスに共に挑戦する事業パートナーを募集します。詳細はお問い合わせください。(お問合せ先: info@vie.style)